「粉飾決算」はどのようにして見破られているのか?その2
前回より、銀行の決算書の読みとり・分析時における「粉飾決算の見つけ方」の最大のポイントとして、資産項目(特に売掛金や棚卸資産)の回転期間についての説明をさせて頂きましたが、今回は現預金や借入の粉飾についての説明をさせて頂きます。
目次
2.現金の粉飾について
まず現預金の粉飾がどのような仕組みで発生するのかについて、特に現金について確認しておこうと思います。
・預金から現金への振替が行われる
仕訳で言えば、
借方:現金
貸方:預金
という処理です。中小企業においては、主に現金での支払いが行われる経費に対して、その分のお金を預金から引き出しをし、現金にする処理です。
現金で支払うが、会計処理がされずに放置される
多いのは交通費や接待交際費、社長や役員等の個人支出の立替といったところです。例えば接待交際費であれば、借方:接待交際費 貸方:現金という処理を行い、現金を減らしますがその処理がなされないことで現金が残り続けます。
決算時等で赤字を懸念し、この処理ができないまま決算書を作成してしまう
その後、決算時や銀行に試算表の提出を求められた際に、何とか黒字での資料提出をしようとしても、これらの処理をすると大半が経費となって利益を減らし、赤字になってしまうことから処理ができなくなります。
こうして、現金が少しずつではありますが着実に、その残高を増やしてしまうことになるのです。
現金が過剰にあると判断した銀行は、どう考えるのか?
レジを複数持つ小売店や、明確に現金をある程度保有する必要があると認められる業種を除いて、本来会社は何百万も現金を持つ必要がないということは、もちろん銀行も認識しています。従って、本来(ある程度以上優秀な)融資担当者であれば、現金が百万円以上もあれば、その時点で「未処理にしている経費があり、実際はその分赤字になるのでは?」という目線で考えることになります。
百万円や二百万円の程度であれば、企業評価に対して大きな違いを生む程のものではありませんから問題になることも無いでしょうが、数百万円を超えてくれば、話は別です。
「この会社(社長)は、経費を統制しないで好きなように使っているのでは?」
「それによって、融資した資金が、本来の資金使途と違う使われ方をされているのではないか?」
と考え始めます。これはどちらも融資にとっては重要な視点で、外れていると認識されれば、それだけで融資を断る理由になり得ます。実際に疑うようなことになってしまった場合、直接お客様に言うことはなくとも簡単に、疑いを表現して、融資の申し込みを受けても断ってしまう方法が融資担当者にはあります。
その会社から融資の申し込みを受けても、「現金がまだ十分あるではないですか。融資いらないですよね」とだけ、指摘すればよいのです。
言われてしまった方は大変です。「ええそうですね」と返事をすれば、融資の申し込みを自分から無かったことにする、と申し出せざるをえなくなりますし、「違います、その現金はありません」と返事をすれば、粉飾していることを即座に認めることになります。
※私自身の体験でもいくつかあるのですが、社長様がお母様へ貸付をするにあたり会社から貸付を行い貸付金に計上するのを嫌って現預金に残したところ、現預金の計上が17百万円ある状態で「今月末の支払に懸念があるので融資が欲しい」と申し込みされたお客様がいらっしゃいました。
現金が適正以上にある、というのは、それ自体が全て「使途不明金」として解釈され、資産評価としては当然のことですが、経営陣のお金に対する考え方から、あげくの果てには「浪費して、それを隠そうとする」という意味で社長としての資質すら疑われることになりかねません。
逆にいえば、現金が適正値になっているということは、「現金出金が発生しても、その現金が何に使われているか、適正に処理され、きちんと統制されている。」と評価を受ける、ということです。
銀行との関係を良好に保つためという視点では、簡単ではありますが、だからこそ尚更、この項目についてはおかしなことにならないようにしたいものです。
3.預金の粉飾について
預金の粉飾は、原則的には有り得ないもの、とされています。なぜなら、銀行の発行する残高証明書を、税理士先生が確認することで決算書が作成されるものだから、です。
それでも何らかの操作により預金が積み増しされている場合には、当然現金が過剰にある場合と同様の考え方を銀行は行いますが、より深刻な問題を内包することになります。
「税理士先生も粉飾に加担しているのでは?」という懸念を抱くからです。元々が銀行の発行する残高証明書により確認されるべきものであること、それ自体は誤解のしようがないことからも、銀行にとっては「意識的にそれを変えた」として、かなり悪質であるという認識を持つものです。
これだけでもうおわかりと思いますが、預金の粉飾についてはそれが明るみになった場合、かなり大きな問題となります。尚更、決して行ってはいけません。
執筆:今野洋之