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2021.09.29

M&Aの進め方!企業の価値・価格の決め方!

今回は、M & A 企業の価値価格の決め方というテーマでお話をさせていただきましょう。事業譲渡、事業売却には売る立場、買う立場、それから仲介者の立場があります。本レポートでは買う立場、仲介者を中心にお話します。

企業価値には3つあります。

企業価値① 純資産を基準とする事業承継

一つ目は純資産を基準とする事業承継です。親族に会社を譲るなら、できるだけ税金を安くしたいと考えます。今は事業譲渡、事業承継を国策として推奨しているので、税金の負担を減らす方法が色々あります。これはM&Aとはスキームが異なるので本レポートでは対象外であり、税理士の仕事の範疇なのでそちらに任せます。

企業価値② 事業譲渡価格

二つ目、これがまさに本レポートのテーマである、経営権を100%第三者に譲る、または100%買い取るときの事業譲渡価格、又は事業承継価格です。

企業価値③ 会社の株の一部をどなたかに持ってもらう

三つ目は自分で経営する会社の株の一部をどなたかに持ってもらう方法です。これは特にベンチャーキャピタルのケースですね。会社を作り、成長だと資金が必要なので、一部新株を発行し成長資金のために投資をしてくださいと。増資を引き受けてくださいっていうケースですね。

一つ目は租税法との関連なので税理士の仕事の範疇です。しかし、二つ目と三つめの価値を決める専門家は存在しません。ただし、売り手と買い手が存在する以上、相場感はあります。欲しかったら高くても買うし、早く売りたければ安くても売る。ここに価格に幅があります。

よく、公認会計士に「うちの会社はいくらですか?」と尋ねる方がいますが、彼らが決めるわけではありません。正確に言えば、公認会計士の仕事は、上場企業の売買価格が妥当かどうかの判断だけです。適性ではないと判断すれば監査処分を出さないという役割です。

価格の考え方について

ではその価格の考え方についてお話します。 M & A が成立しないケースというのは、売る側が過度に高く見積もったり、買う側が過度に安く見積もったりする場合です。それは当然売れませんし、買いませんよね。

そこで、売りたいならまず、適正価格を知って欲しいと思います。その前提で、譲渡はしかるべき仲介会社に専任したほうがと良いと思います。専任がよいと言うのは、あちこちに言うと情報漏洩のリスクが大きくなるからです。従業員の耳に入れば不安にさせるし、取引が成立しなかった場合にも経営にマイナスになります。これは買い手側であっても大変気をつけなければなりません。検討してもお断りになることもあるからです。

仲介業者とは、適正価格、企業の価値の幅を提示してもらい、議論をきちんとしてから専任契約をしてください。反対に、こういう話をしない仲介会社は付き合わないほうが良いです。

幅とは、24億くらいの価値の会社があったら、売り手は27億で売りたいと言うが、やり方によっては20億強で買えるかもしれない。こういう相手との関係で決まる価格の振れ幅です。100億や10億はもちろん、30億でも幅として妥当ではありません。少し訓練をすると分かるようになりますが、まずはこのルールを理解してから話を始めたほうが良いです。そうでなければ、いざ買い手が見つかった時に売り手が想定していた価格とかけはなれており、折り合わないとなると時間の無駄になります。

買い手になる場合

次に会社が買い手になる場合の話をします。買い手になると仲介会社に規模、事業領域、予算を伝え、会社を探してもらうことになるでしょう。基本的に譲渡が終了する日にお金を払い込み、同時に株式の名義変更をします。名義変更だけ済ませて、支払いは分割ということはあり得ません。資金を調達できない会社は買う資格がないということなので、力相応を意識してください。 逆に売り手側の仲介会社もそれを理解して買い手を探します。買い手側になる場合は、売却価格が概ね決まっていて、売り手の専任契約が取れている案件に限定してください。

企業価値がマイナスの会社もあります。こういう会社は無料でも売れないどころか、お金を払わないと引き取ってもらえません。ただし、後述しますが例外もあります。

続いて、事業譲渡、事業買収のメリット・動機という整理をします。売り手は、廃業しようとすると企業価値がゼロ、場合によってはマイナスになります。

例えば工場であれば設備を処分するとなれば二束三文で売って、その上原状回復をしなければならないかもしれませんし、従業員も退職してもらうので何かと不幸です。だから、事業がプラス価値であるならば誰かに譲るべきです。場合によってはゼロ円でも譲るべきです。雇用の維持もできますし、もし売れれば退職金になります。または、企業価値がプラスのうちに引き取ってもらい、立て直してもらうのも良いでしょう。

部分譲渡という方法もあります。Aの事業とBの事業があるが、Aの事業に集中したいからBの事業を売ってAに集中する。これはある意味事業立地のシンプル化、単純化です。もちろん、事業価値がプラスであることが前提です。

続いて、買い手側のメリット、動機です。以前にも話したように、新しい事業を始めるとなるとやはり一時沈みを経験しますから、既存の事業を引き受けた方がプラスになる場合もあります。売り手が持っている商圏、商品、工場などの生産・販売のインフラがあれば、会社を買うことで時間を圧縮することができます。さらに、既存事業との相乗効果が出ることもあります。この場合、先ほど申し上げた企業価値が多少マイナスであっても、ゼロからはじめるよりメリットがあれば、飲み込んだほうがよいことがあります。

企業価値評価「会社の値段、いくらですか?」

次に、いよいよ企業価値評価、「会社の値段、いくらですか?」ということをお話します。企業価値は以下の3つの足し算でだいたい決まります。正味純資産がいくらあるか。バランスシートの右下ですね。また、将来利益とさらに、後述しますが隠れた「ポケット」があります。

上場会社のバランスシートは監査を受けて適正に処理をされているのですが、未上場会社の場合、本来は会計上の資産でないものまで入っていたりするので、そこを考慮する必要があります。

将来利益は、その事業の過去と現在の利益や赤字を勘案して、今後3年から5年先、正味純資産にプラスになるのか、マイナスになるのかを予測します。

さらに、プラス・マイナスポケットという言葉を使います。ポケットというのはM&Aの専門用語ですが、企業価値をプラスかマイナスにする見えていない要素のことです。意図的に隠しているのではなく、単に見えていないからポケットなのです。②で様々な事例をお伝えしますが、例えば無形資産などがあります。

あるマイナス価値の会社をM&Aをしたことがありました。その会社があるビッグカンパニーと同じ屋号だったため、ビッグカンパニーは嫌だろうと想像したのです。だから買収後、その屋号を手放すということで、ビッグカンパニーに1億を優に超える金額で買ってもらいました。こうしてマイナスを消すことができました。これがプラスのポケットです。

全く違う次元で、事業性評価というものがあります。素晴らしい事業を立ち上げるときでも最初は沈むので、一時は債務超過で赤字になる。しかし将来大きな利益生むと分かります。こういう会社に出会った時に、自分に力と必然性があれば値段をつけてでも買うというのが事業性評価です。

そこで、売り・買いを検討していて入り口で悩んでいる社長は、まず仲介業者と価格の議論をしていただきたいと思います。

買収事例

将来利益をどう見るか、実際にあったパートナー企業の買収事例をお話します。このうち2社は皆さんご存じの最大手の仲介会社、1社はメガバンク、1社は某大手商社から買った案件です。

Y会社という会社はマイナス2億円、つまりマイナス価値の会社です。これはポケットの例に上げた会社です。

純資産額5千万円のマイナス、債務超過。それから赤字基調4千万、3千万、5千万というような過去3期の赤字の推移があり、会社の趨勢とすると、今期も来期も再来期も赤字が予想されます。どう見てもマイナスです。細かいデューデリジェンスをしなくとも、元々資産も薄いですから、決算書推移を見て話をすれば分かります。ちなみに、当時のM&Aの担当者は「0で良いです」と言うのですが、明らかに無知な判断です。

ただ私はこの事業に色々な理由があって興味がありましたので、よく話し合って、オーナーが持っている土地を提供していただくことで少し埋め、それでも足りないんですが、①でお話した商標権の件も含めて取引が成立しました。

続いてW社は3,000万円程の純資産がありますが、大きな会社ではありません。年商数億で若干マイナスがついていたので、額面通り計算すれば0円です。しかしこの会社、実はフランチャイズの加盟開発事業の業界2位でした。売り手の都合を考慮し、買い手側の事業立地の評価も高かったので、結果1億6千万円ぐらいで買収をしました。

次に A社。年商は10億円程度ですが、利益が2千万円ずつぐらいの弱含みの会社でした。純資産7千万と、弱含みですから将来利益は1年分2千万円を加算し、9千万ぐらいかなという査定をして、その通り買収を実行しました。

一番大きかった買収は、純資産が16億円ぐらいの企業です。安定的に純利益で1億数千万から2億円は出るとして、これを何年分見るか。この会社が欲しかったので、4年分を見て8億円、従って24億円で買収を実行しました。

企業価値評価は、査定した後の純資産を見て、そこに純利益を何年分足すか、それにポケットをどう見るかで決めます。純利益は推移で何年分見るか、3年、5年、7年か……?もちろん、将来の利益は誰もわかりませんから、蓋然性で見るしかありません。ずっと2億で推移して足元も悪くないので推移するだろうな、のように判断するしかないのです。何年見るかというと、上場会社でも長くて7年~6年。今の時代、5年続くかと言えばなかなか厳しいですから10年も見るということはありません。

これは売り手と買い手のパワーバランスにもよります。相手が強ければ、7年くらい見る、こちらが強ければ、3年ぐらいで見る、という具合です。

ポケット事例

次にポケットについていくつか事例を話します。例えば、先ほどお話した24億円の大きな買収をした時の話ですが、その会社には大きな土地があり事業者さんに貸し出しをしていたのです。ところが実態を見ると、計算書の賃貸収入が明らかに少ないと分かりました。これはプラスのポケットがあるということです。そこで、買収した後にすぐ賃貸契約を精査しました。その結果、単年度で数千万以上の利を乗せることが出来ました。

ちなみに、純利益を基準に話をしてますが、海外との取引をする際、純利益の計算は若干論拠が希薄になります。海外の企業は租税法が違いますから、税率も違うためです。国際取引をする時には、EBITDAという指標があり、これは営業利益+減価償却費をひとつの利益の基準にして尺度合わせてカウントするというものです。

このレポートをご覧になっている方は、国内の M & A を考えている方でしょうから、お伝えしている基準で良いと思いますが、海外取引に絡む時にはまた別の基準があるということをご承知おきください。

ポケットについて引き続きお話しますが、純資産の会計リスクというものがあります。

資産に棄損がある、売り上げを水増ししてるとか、期末の売上金をたくさん前倒ししてるといったケースです。 本来1,000万円お支払いしなければいけない社員を500万円で働かせていたら、差分の利益は本来なかったものです。未払い残業代のような労務のリスクも今よくあります。

デューデリジェンスの大きな要素に役員報酬をどう考えるか、ということがあります。例えば売り上げ1億円で利益が500万円の調剤薬局、オーナーは仕事をしておらず、薬剤師でもないが毎年2000万役員報酬を受け取っている。実際は不要な2000万円であり、その分利益が乗ることになるので、買い手にはメリットであり、売り手も訴求したい点です。

デューデリジェンスを行っていくと、会計上の粉飾でない未計上費用が結構あります。過去に遡って払うとなると特別損失が何千万も出ることがある。悪い会社は、例えば寒くても休憩室にストーブも置かないので燃料代が発生してないというケースもあります。しかし買収したらそこにストーブを置いてあげなくてはいけません。逆に、良い会社を買うと、締めれば利益が上がる部分もたくさんある。こういうものをすべて見ていくので、大変ではあります。

企業価値まとめ

ここまで色々なM&Aのリスクを申し上げましたが、結局気にしすぎると買うことはできません。万一瑕疵責任があった時は賠償してもらえるよう契約を結びますが、もし相手に賠償能力がなければ結局かぶるのはこちらです。大きな例で言うと、東芝がアメリカの原子力関連の企業を買ってとんでもない瑕疵責任があり、実質破綻に近い状況になったこともありました。そういう裏保証は結局分からないので、怖いものではあるのですが、やはり最後は腹をくくるしかありません。

我社も多数のM&Aを経験して思うのは、中小企業のM&A市場は未開拓な部分が多いと思います。やはりまだまだM&Aのメリットを伝えきれていないと思います。

企業が廃業することは悪だと思います。雇用の問題含め、色々なロスが起きますから。できるならば企業価値がプラスの間に第三者に譲って、きちっと引き継ぐというインフラができればよいと思います。

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