競合の少ない市場で中小企業が勝ち残る方法|ブルーオーシャン戦略とランチェスター戦略の実践ガイド
売上を上げたいと思ったとき、多くの中小企業経営者が取る行動は「同業他社と同じことをもっと頑張る」ことです。しかし、大手と同じ商品・同じ価格帯・同じエリアで戦えば、資金力・人員・ブランド力で劣る中小企業が不利なのは当然です。
」
本記事では、中小企業が「競合と戦わなくてよい場所」を見つけて勝ち残るための2つの戦略 ブルーオーシャン戦略とランチェスター戦略と、それを実行に移すためのマーケティング設計の考え方を解説します。
目次
ブルーオーシャン戦略とは何か?レッドオーシャンとどう違うのか?
ブルーオーシャン戦略とは、従来は存在しなかった新しい価値を作り、新たな市場を創造する経営戦略のことです。その対極にあるレッドオーシャン戦略と比較すると、違いが明確になります。
| レッドオーシャン戦略 | ブルーオーシャン戦略 | |
|---|---|---|
| 市場 | 既存の競争市場で戦う | 競合のいない新市場を作る |
| 競争 | 競合他社に勝つことを目指す | 競合を無意味にする |
| 価値とコスト | 価値向上かコスト削減かのトレードオフ | 差別化と低コストを同時に実現する |
| 顧客 | 既存顧客のニーズに応える | 非顧客(ノンカスタマー)の需要を作る |
ブルーオーシャン戦略では、それまで業界内では正しいと思われていた視点を顧客の視点から見直し、常識を破壊して新しいサービス・商品を開発していきます。成熟した市場で活路を見いだせずにいる中小企業が新しく市場を開拓できれば、競合相手のいない成長市場を創り出せます。
ブルーオーシャン戦略で成功した3つの実例から何を学ぶか?
事例①:ZOZOタウン——オンラインで洋服が買えない常識を破壊
ZOZOタウンが生まれた当時、サイズ感の分からない洋服を試着なしでオンライン購入するという発想はありませんでした。しかし、店舗を持たない低コストの運営と、リアル店舗ではなかなか買い物ができなかった層の需要を満たす取り組みで、新たな市場を生み出しました。
事例②:QBハウス——「カットだけ」という常識外のサービス
当時、理容・美容業界では1時間以上かけてシャンプー・マッサージを含む3,000〜5,000円のサービスが常識でした。「シャンプーなしのカットだけ」はお客様に失礼にあたるという認識が主流でした。QBハウスは「予約なしで気軽に素早くカットだけしたい」というニーズに着目し、10分・1,000円台のサービスで新市場を作りました。
事例③:任天堂Wii ゲームをしない人をターゲットにした
2003年時点でゲーム市場はピーク時の約半分に縮小していました。各ゲームメーカーはヘビーユーザーのニーズに応え続けましたが、その結果スペックの高度化・価格高騰が進み、各社の差別化が難しくなっていました。
任天堂が取った戦略は全く異なりました。ゲームを買わない層(ノンカスタマー)を調査対象に選び、「なぜゲームをしないのか」を直接ヒアリングしました。その結果わかったのは、誰でも簡単に始められるシンプルなゲーム・家族で楽しめるゲーム・身体を動かせるゲームへのニーズでした。
さらに任天堂は、市場に受け入れられる価格(3万円以内)を先に決め、その価格で実現できる仕様を作り込むという「価格先行型の開発」を行いました。Wiiは大ヒットとなり、任天堂の時価総額は1年で倍以上になりました。
ブルーオーシャン戦略の実践で重要なこと
3つの事例に共通するのは、次のポイントです。
- 既存顧客ではなく「非顧客」に注目する——今の市場で買っていない人がなぜ買わないのかを調査する
- 業界の常識を「顧客の視点」で見直す——「これが当たり前」と思っている要素を疑う
- 売り手の都合でなく買い手の価値から逆算する——価格・仕様を買い手のニーズから設計する
ランチェスター戦略とは何か?中小企業がエリアナンバーワンになる方法
ランチェスター戦略とは、100年ほど前に登場した物理的な普遍法則をもとに生み出された販売戦略です。物理法則をベースにした戦略のため急激な環境変化の影響を受けにくく、どのような状況でも再現性が高い考え方です。
ランチェスター戦略の核心は、特定のエリア・客層・商品カテゴリーを限定し、その中でナンバーワンを目指すという考え方にあります。大企業と同じ広域で戦えば中小企業は必ず負けます。しかし、エリアを絞れば資金力が1/10でも、大企業以上の地域露出を生み出せます。
ランチェスター戦略の具体的な進め方 建設業を例に
① エリアを中学校の通学区域程度に絞る
ランチェスター戦略ではまず、エリアを車で5〜15分で移動できる範囲(中学校の通学区域程度)に限定します。「狭すぎる」と感じる方もいますが、中小企業が地域ナンバーワンを目指すならこの規模が適切です。
② そのエリアの仕事を全て受注することを目指す
大企業と中小企業では資金力・労働力に大きな差があります。その差を埋めるのがエリア集中です。エリアを限定することで、広告の地域露出量を大企業以上にでき、強いインパクトを地域に残せます。
③ 19%以上のシェア獲得を目標に設定する
| シェア水準 | 意味 |
|---|---|
| 19%以上 | エリア内のナンバーワン企業になれる水準 |
| 2位の1.73倍の売上 | 圧倒的な1位になれる水準 |
昨対比で目標を設定するのではなく、エリア内で19%のシェアを獲得するにはいくらの売上が必要かを逆算して営業目標を立てることが、ランチェスター戦略の目標設定の考え方です。
④ シェアが高まると口コミと営業効率が上がる
特定エリアでのシェアが高まれば、競合がエリアを変更する可能性が高まり、相見積もりの勝率が格段に上がります。またエリアナンバーワンになれば、1人当たりの粗利益は業界平均の1.5〜2倍程度になることが多くの事例で確認されています。
⑤ エリア拡大は隣の通学区域から順番に
1つのエリアで20%のシェアを獲得してナンバーワンになったら、次は隣接する通学区域へ。この手順で少しずつエリアを広げていくことで、営業効率を落とさずに売上を拡大できます。
どの市場・顧客を狙うかを定義する4つの問いとは?
ブルーオーシャン戦略・ランチェスター戦略のいずれを選んでも、実行に移す前に「自社が誰に何を提供するのか」を明確にする必要があります。その際に整理すべき4つの問いがあります。
| 問い | 内容 |
|---|---|
| ① 顧客は誰か? | ターゲットとする顧客を具体的に定義する(年代・業種・地域・状況など) |
| ② 顧客が求めているものは何か? | 「ニーズ(満たされない状態)」と「ウォンツ(具体的な欲求)」を区別して把握する。例:「暑い夏に食べ物を安全に保存したい」(ニーズ)→「冷蔵庫」(ウォンツ) |
| ③ 自社はどのような価値を提供すべきか? | ウォンツが明らかになっても満足してはいけない。さらに深く「どのような価値提案が可能か」を考える。これをしないと新たな代替品に置き換えられるリスクがある |
| ④ KBF(購買決定要因)は何か? | 顧客がなぜ自社を選ぶのか(価格・スピード・品質・信頼・利便性など)、競合との比較で自社が優位な要因を把握する |
営業マンに「顧客ニーズをしっかり拾ってこい」とハッパをかける場面は多いですが、本当のニーズを拾えているか、それはウォンツではないかを改めて確認することが重要です。表面的なウォンツだけを捉えていると、競合商品や代替品が出たときにすぐ顧客を失います。
戦略を実行に移すためのマーケティング戦略立案6ステップとは?
市場・顧客・価値提供の方向性が定まったら、それを実行計画に落とし込みます。マーケティング戦略を策定するプロセスには大きく3つのフェーズ・6つのステップがあります。
| フェーズ | ステップ | 内容 |
|---|---|---|
| 分析フェーズ | ① 環境分析 | 外部環境(市場の機会・脅威)と内部環境(自社の強み・弱み)を再確認する |
| ② マーケティング課題の特定 | 課題を洗い出し、取り組む課題とマーケティング目標を明確にする | |
| 立案フェーズ | ③ セグメンテーション・ターゲティング | 市場をグループ分けし、どの顧客セグメントに焦点を当てるかを決定する |
| ④ ポジショニング | 競合他社との差別化を行い、顧客にアピールできる自社の提供価値を決定する | |
| 展開フェーズ | ⑤ マーケティングミックス(4P) | 商品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・販促(Promotion)の4つをどう組み合わせるかを決定する |
| ⑥ 実行計画の策定と評価 | 具体的なアクションプラン・損益計画・資金計画を策定し、モニタリング体制を作る |
この6ステップはシンプルに見えますが、自社について深掘りを始めると大きな労力を要します。重要なのは、「自社がどうしたいのか、どうなりたいのか」という意志をまず持つことです。この意志がなければ分析すら意味を持ちません。
競合の少ない市場で勝ち残るために、今日からできることは何か?
| 取り組み | 具体的なアクション |
|---|---|
| ① 業界の常識を洗い出す | 「うちの業界では当たり前のこと」をリストアップし、それを顧客視点でひっくり返せないか考える |
| ② 非顧客の声を集める | 今の商品・サービスを使っていない人に「なぜ使わないのか」を直接聞く |
| ③ エリアと客層を絞る | 自社が19%のシェアを獲れそうな範囲(通学区域程度)を設定し、そこに営業資源を集中させる |
| ④ 4つの問いに答える | 顧客・ニーズ・価値提供・KBFの4点を文章で定義し、営業マン全員で共有する |
| ⑤ シェアを数値で管理する | ターゲットエリアの市場規模を推計し、現在の自社シェアと目標シェア(19%)を数値で管理する |
よくある質問
Q. ブルーオーシャン戦略を見つけるには、具体的に何をすればよいですか?
A. まず「業界内で当たり前とされていること」をリストアップし、そのひとつひとつを「顧客はこれを本当に必要としているか?」という視点で見直すことから始めてください。次に、今の商品・サービスを使っていない「非顧客」に直接話を聞きます。「なぜ使わないのか」「何があれば使いたいか」という声の中に、新市場のヒントがあります。QBハウスも任天堂も、既存顧客ではなく非顧客への調査から始まりました。
Q. ランチェスター戦略でエリアを絞ると、売上が下がりませんか?
A. 短期的には受注機会が減るように感じますが、中長期では逆の効果をもたらします。エリアを絞ることで広告・営業の密度が上がり、地域での認知が高まります。認知が高まれば口コミが増え、相見積もりの勝率が上がります。エリアナンバーワンになれば、一人当たりの粗利益は業界平均の1.5〜2倍になることが多くの事例で確認されています。まず1つのエリアで19%シェアを目指し、達成後に隣接エリアに拡大する順序を守ってください。
Q. 非顧客(ノンカスタマー)の声はどうやって集めればよいですか?
A. 最もシンプルな方法は直接ヒアリングです。「なぜ弊社(または同業者)のサービスを使わないのか」を対面・電話・アンケートで聞いてみてください。既存顧客からの紹介で非顧客とつながる方法も有効です。また、SNSやレビューサイトで業界に対するネガティブな口コミを集めることも、「使わない理由」を知る手がかりになります。重要なのは、自社内で仮説を作るのではなく、必ず外部の声を直接集めることです。
Q. 中小企業がSTP分析やポジショニングを行う際、何から始めればよいですか?
A. まず「4つの問い」——顧客・ニーズ・価値提供・KBF——に対して自社の考えを文章で書き出すことから始めてください。これだけでも、自社が誰に何を売っているのかが明確になります。次にKBF(購買決定要因)を競合2〜3社と比較し、自社が優位な点を1〜2つ特定します。その優位点を営業トーク・HP・パンフレットで前面に出すことが、ポジショニングの実践です。専門用語や複雑なフレームワークに縛られず、「自社の強みを明確にして伝える」ことを最優先にしてください。
Q. ブルーオーシャン戦略とランチェスター戦略、中小企業はどちらから始めればよいですか?
A. 現在の事業・商品・エリアが明確に定まっている会社は、まずランチェスター戦略を実践することをおすすめします。エリアを絞って営業資源を集中させ、地域ナンバーワンを目指すアプローチは即効性が高く、今の事業を活かしながら実行できます。一方、既存の市場で差別化が難しい・価格競争に巻き込まれているという場合は、ブルーオーシャン戦略の視点で「新しい市場の種」を探すことから始めてください。2つの戦略は矛盾しません——まずランチェスターで地盤を固め、その上でブルーオーシャンを狙うという組み合わせが中小企業には最も現実的です。
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