金融庁の新方針『地域金融力強化プラン』で経営者が準備すべきこと
2025年10月28日、金融庁から「地域金融力の強化に必要な方策(案)(全体像)」が公表されました。年内に正式な「地域金融力強化プラン」が策定される予定ですが、このタイミングで中小企業の経営者が理解しておくべき内容をご紹介します。金融機関との関係性に変化が生まれる重要な局面です。
目次
「地域金融力」とは、経営者にとって何を意味するのか
金融庁が定義する「地域金融力」とは、人口減少や少子高齢化などの環境変化に直面する地域が持続的な発展を目指す中で、地域金融が地域経済に貢献する力を指しています。
これまでの地域金融機関は、企業の経営資源である「資金」の融資を主な業務としてきました。しかし今回の方針では、さらに踏み込んだ役割が期待されようとしています。具体的には、M&A・事業承継支援、人材確保の支援、事業再生支援、地域企業へのDX推進、そして地域課題の解決まで、経営全般に関わる支援が求められるようになるのです。
地域金融機関に求められる「3つの支援軸」
今回の方針で地域金融機関が主体となる支援は、以下の3つに整理できます。
まず第一に、経営面の伴走支援です。従来の融資に加えて、M&A・事業承継、人材確保、事業再生、DX支援など、企業の経営課題全般に対応することが期待されています。これは、銀行が単なる「お金の提供者」から「経営パートナー」へとシフトすることを意味します。
第二に、事業性融資の推進です。従来の不動産担保や経営者保証ではなく、事業の実態や将来性に着目した融資へのシフトが進みます。2026年5月に導入される企業価値担保権の活用に向けて、金融機関間の勉強会も活用しながら環境が整備されていきます。
第三に、地域の官民連携への参画です。地方自治体の施策に留まらず、民間の知恵や資金も活用したまちづくりに金融機関が参画し、公有不動産や遊休不動産の活用プロジェクトなどに関わっていくことになります。
なぜ今、金融機関の役割が変わるのか
背景には、地域経済の深刻な課題があります。人口減少により地域の産業規模が縮小する中で、金融機関が「資金を貸す」という従来型のビジネスモデルだけでは持続不可能になってきたのです。
地域全体が成長する環境を作ることで、金融機関と地域企業がともに発展できるエコシステムを構築することが、これからの地域金融の生き残り戦略となっています。そのため、国・地方公共団体、教育・研究機関、地域の事業者と金融機関が連携し、総合的に地域課題に取り組む必要があります。
経営者が今から準備すべき「3つのポイント」
この金融庁方針の発表は、中小企業の経営者にとって実は大きなチャンスでもあります。以下の3点を意識して準備しておくことをお勧めします。
1. 経営情報の整理と可視化
事業性融資が推進される環境では、金融機関が「事業の実態や将来性」を厳密に判断するようになります。財務諸表はもちろん、経営戦略、市場ポジション、競争優位性など、自社の事業内容を明確に説明できる状態にしておくことが重要です。
2. 経営課題の明確化
今後の金融機関は、融資と同時に経営課題の解決をサポートする立場になります。事前に「自社の課題は何か」「どのような支援が必要か」を整理しておくことで、金融機関からの提案がより実質的なものになります。
3. 複数の金融機関との関係構築
これまで以上に、金融機関との関係が多次元的になります。融資担当だけでなく、経営支援専門の部門がある金融機関を選定し、継続的な対話を通じて経営パートナーとしての関係を築くことが重要です。
2026年に向けた企業価値担保権の活用
2026年5月に導入される企業価値担保権は、事業性融資を大きく前進させる制度です。従来の担保では評価されなかった、企業の営業権や知的財産権などの無形資産が担保対象になります。
この変化により、赤字企業や創業間もない企業でも、事業の成長性が認められれば融資を受けやすくなる可能性があります。自社の無形資産(ブランド力、技術、顧客基盤など)を意識的に評価・説明できる準備が、これから必要になります。
経営者への重要なメッセージ
金融庁が示した「地域金融力強化プラン」は、単なる金融機関の改革ではなく、地域経済全体の再構築に向けた大きな方針転換です。
経営者にとっては、これは金融機関との関係をより戦略的に構築するチャンスとも言えます。年内に正式方針が決定される前に、自社の経営課題や成長戦略を改めて整理し、金融機関への相談体制を整えておくことをお勧めします。
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