事業承継の3つの手法を徹底比較|親族内承継・従業員承継・M&Aのメリット・デメリットと選び方
事業承継を考え始めたとき、最初に直面するのが「誰に・どうやって引き継ぐか」という手法の選択です。
事業承継の手法は大きく3種類あり、会社の状況・後継者の有無・財務状態によって最適解は異なります。手法の選択を誤ると、後継者との関係悪化や税務上の不利益、会社の存続リスクにもつながりかねません。
この記事では、3つの手法それぞれの特徴とメリット・デメリット、そして自社に合った手法の選び方を専門家の視点で解説します。
事業承継の手法には何種類ありますか?
事業承継の手法は、後継者が「社内の親族か・社内の従業員か・社外の第三者か」によって以下の3種類に分類されます。
①親族内承継|子・兄弟など血縁者への承継
子どもや兄弟、親族など、血縁関係にある人物に経営を引き継ぐ方法です。日本の中小企業では最も多く選ばれてきた伝統的な手法で、中小企業庁の調査でも過去は全承継の約7割を占めていました。
後継者本人が「継ぎたい」という意思を持ち、十分な後継者教育の時間が確保できる場合に最も適した手法です。
②従業員・役員への承継(MBO)
親族以外の社内の役員・従業員が後継者となる方法です。MBO(マネジメント・バイアウト)とも呼ばれ、後継者が自社株式を買い取って経営権を引き継ぎます。
親族に後継者候補がいない場合や、経営に適した人材が社内にいる場合に有効な選択肢です。ただし、後継者となる従業員が株式買取資金を自力で調達できるかが大きな課題になります。
③M&A・第三者への承継
社外の企業や個人に会社を売却・譲渡する方法です。近年、後継者不在を背景に中小企業のM&Aは急増しており、スモールM&AやM&A仲介会社を活用したケースが増えています。
親族にも社内にも後継者候補がいない場合の有力な選択肢であり、売却益を引退後の生活資金に充てられるというメリットもあります。
3つの手法はどう違うのですか?【一覧比較表】
3つの手法を主要な観点で比較すると以下の通りです。
| 比較項目 | ①親族内承継 | ②従業員・役員承継 | ③M&A |
|---|---|---|---|
| 後継者候補 | 血縁者 | 役員・従業員 | 社外の企業・個人 |
| 準備期間の目安 | 5〜10年 | 3〜5年 | 1〜3年 |
| 社内の安定性 | ◎ 高い | ○ 比較的高い | △ 懸念が生じやすい |
| 株式・資産の移転コスト | △ 相続税・贈与税が発生 | △ 買取資金が必要 | ○ 売却益を得られる |
| 情報漏洩リスク | ◎ 低い | ○ 比較的低い | △ 情報管理が必要 |
| 後継者が見つからないリスク | △ 拒否される可能性あり | △ 候補者次第 | ◎ 低い(市場で探せる) |
どの手法を選ぶべきか?3つの判断基準
手法の選択に「絶対の正解」はありませんが、以下の3つの観点で検討すると整理しやすくなります。
判断基準1|後継者候補が社内にいるか
最初に確認すべきは、「継いでくれる人物が社内(親族・従業員)にいるかどうか」です。
親族に候補がいる場合は①親族内承継を、社内に経営者として信頼できる人材がいる場合は②従業員承継を検討します。どちらにも該当しない場合は、③M&Aが現実的な選択肢になります。
判断基準2|会社の財務・借入状況
銀行借入が多い・債務超過に近い状態では、後継者が連帯保証を引き受けることに消極的になりがちです。特に親族内承継・従業員承継では、後継者が借入リスクを背負うことへの心理的ハードルが高くなります。
財務状況が厳しい場合は、まず事業の収益改善・借入整理を進めながら、M&Aも含めた選択肢を並行して検討することが重要です。
判断基準3|準備に使える時間(経営者の年齢)
事業承継には一般的に最低でも3〜5年の準備期間が必要です。経営者が60代前半であれば親族内承継・従業員承継も十分間に合いますが、70代後半以降や健康上の理由で時間が限られる場合は、スピーディに進めやすいM&Aが選ばれるケースが増えています。
各手法のメリット・デメリットはどう違いますか?
①親族内承継のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
・社内・取引先・金融機関から理解を得やすい ・経営理念・企業文化が引き継がれやすい ・準備期間を長く取れる ・事業承継税制(特例措置)を活用できる |
・後継者本人が拒否するケースがある ・相続・贈与に伴う税負担(自社株評価額次第) ・親族間の株式・財産分配でトラブルが起きやすい ・後継者の経営能力が不十分なリスク |
②従業員・役員承継(MBO)のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
・業務・業界・社内事情に精通した人物に引き継げる ・従業員・取引先が安心しやすい ・社内の人材を活かせる |
・後継者が株式買取資金を調達しにくいことが多い ・旧経営者との「主従関係」が残り意思決定が鈍るケースがある ・後継者の経営経験が不足している場合がある |
③M&A・第三者承継のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
・後継者が社内にいなくても会社を存続できる ・売却益を引退後の資金に充てられる ・買い手企業のリソースで事業が成長する可能性がある ・経営者保証(連帯保証)の解除につながることが多い |
・従業員・取引先に不安を与える可能性がある ・買い手が見つからないケースもある ・交渉・デューデリジェンスなどに時間とコストがかかる ・売却後に経営方針が変わるリスクがある |
手法が決まったら、次に何をすればよいですか?
手法の方向性が見えてきたら、次のステップは「事業承継計画の策定」です。承継のタイミング・後継者教育の内容・株式の移転方法・税務対策などを時系列で整理した計画を作ることで、実行フェーズへスムーズに移行できます。
また、手法によって関わる専門家が異なります。親族内承継・従業員承継は税理士や弁護士、M&Aは仲介会社やFAが主な相談先となりますが、どの手法を選ぶかが決まっていない段階から相談できる専門家に早めに話すことが、結果として準備期間を有効に使う近道です。
よくある質問(FAQ)
Q. 事業承継の手法で最も多く選ばれているのはどれですか?
かつては親族内承継が全体の約7割を占めていましたが、後継者不在問題の深刻化により近年はM&A(第三者承継)が急増しています。中小企業庁の調査では、後継者不在率が50〜60%台で推移しており、M&Aを活用した事業承継は今や一般的な選択肢となっています。
Q. 親族内承継と従業員承継では、どちらが社内の混乱が少ないですか?
一般的には親族内承継のほうが社内の安定性は高い傾向があります。ただし、後継者が現場で十分な実績を積んでいない場合は、古参社員からの反発が生じることもあります。従業員承継(MBO)は、後継者が社内でキャリアを積んできた人物であれば、社員・取引先の理解を得やすいというメリットがあります。
Q. 借入金が多い会社でも事業承継はできますか?
可能です。ただし、借入が多い状態のままでは後継者が連帯保証を引き受けることに消極的になりやすく、親族内・従業員承継が難しくなるケースがあります。その場合はM&Aによる第三者承継が現実的な選択肢となります。また、経営者保証ガイドラインを活用することで、承継時に連帯保証を解除・引き継がない形を交渉できる場合もあります。まずは専門家に相談することをおすすめします。
Q. 事業承継の手法は途中で変更できますか?
変更は可能ですが、途中で方針を変えると関係者(後継者候補・従業員・金融機関)に不安と混乱を与えるリスクがあります。たとえば「子どもに承継」と周知した後にM&Aに切り替えると、社員の離職につながる場合もあります。早い段階から複数の選択肢を比較しながら方向性を決め、変更が必要な場合は専門家を交えて丁寧に対応することが重要です。
Q. 事業承継の手法を選ぶ際に、最初に相談すべき専門家は誰ですか?
手法が決まっていない段階では、税理士・弁護士・M&A仲介会社のいずれか一社に絞らず、事業承継を総合的に支援できるコンサルタントや、中小企業基盤整備機構・事業承継・引継ぎ支援センターといった公的機関への相談から始めるのがおすすめです。手法が決まってから各専門家(税務は税理士、M&Aは仲介会社など)に依頼するとスムーズです。
Q. 事業承継で「引き継ぐもの」とは具体的に何ですか?
事業承継で引き継ぐものは大きく3つです。①経営承継:次の社長を誰にするか、経営の意思決定権をどう移すか。②所有承継:自社株式や事業用資産など、会社の所有権の移転。③後継者教育:現経営者の技術・ノウハウ・人脈・経営判断力を後継者にどう引き継ぐか。この3つは同時並行で準備を進める必要があり、どれか一つが欠けても承継は成功しません。特に③の後継者教育は時間がかかるため、最も早く着手すべき課題です。
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