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事業承継における株式・財産の分配で注意すべきこと|親族間トラブルを防ぐ対策

「子どもに会社を継がせたいが、他の兄弟への財産分配をどうすればいいか悩んでいる」「株式を後継者に集中させたいが、相続でもめないか不安だ」親族内承継を検討する経営者が最もつまずく問題の一つが、株式・財産の分配です。

 

事業承継における財産の分け方を誤ると、後継者が経営権を安定して握れない・親族間の遺産争いが発生する・多額の税負担が生じるという3つのリスクが同時に発生します。

 

この記事では、事業承継における株式・財産分配の注意点、遺留分問題への対処法、そして生前対策の選択肢を専門家の視点で解説します。

事業承継での財産分配はなぜ難しいのですか?

一般的な相続では「財産を均等に分ける」ことが公平の原則とされますが、事業承継では「後継者に株式・経営権を集中させる」ことと「他の相続人への公平な配慮」が根本的に矛盾します

 

たとえば、長男に会社を継がせたい場合、自社株式のほとんどを長男に渡す必要があります。しかし次男・長女にも法律上の相続権(遺留分)があり、何も対策をしないまま相続が発生すると、株式が分散して後継者が経営権を握れなくなったり、他の相続人から遺留分侵害額の請求を受けたりするリスクがあります。

 

このため事業承継における財産分配は、早い段階から計画的に対策を講じることが不可欠です。

事業承継で株式を後継者に集中させる必要があるのはなぜですか?

会社の意思決定は株主総会で行われます。後継者が株式の過半数(できれば3分の2以上)を持っていないと、重要な経営判断を単独で下せない状況が生まれます。

 

保有割合の目安 できること・できないこと
50%超 普通決議(取締役選任・利益処分など)を単独で可決できる
3分の2以上 特別決議(定款変更・増資・合併など重要事項)を単独で可決できる
3分の1超を他者が保有 特別決議を単独で阻止できる(=後継者の経営が制約を受ける)

 

株式が後継者以外の親族に分散してしまうと、後継者の経営判断に「拒否権」を持つ株主が生まれるリスクがあります。経営と所有を一致させた形で株式を集中させることが、安定した承継の前提条件です。

後継者以外の相続人(兄弟・配偶者など)への対応はどうすればよいですか?

後継者に株式を集中させる場合、他の相続人への対応が重要になります。法律上、相続人には最低限の相続分を主張できる「遺留分」が認められているためです。

 

遺留分を無視して後継者に財産を集中させると、他の相続人から遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)を起こされ、後継者が現金での支払いを求められるリスクがあります。

 

主な対処法は以下の3つです。

 

対処法1|代替財産を用意する
後継者に株式を渡す代わりに、他の相続人には不動産・保険金・現預金などで代替の財産を用意します。後継者以外が「不公平だ」と感じにくい設計にすることが重要です。

 

対処法2|生命保険を活用する
経営者を被保険者・後継者以外の相続人を受取人とする生命保険を準備することで、現金での代償分割の財源を確保できます。保険金は遺産分割協議の対象外になるため、スムーズな分配が可能です。

 

対処法3|民法上の合意(遺留分に関する民法の特例)を活用する
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)に基づき、後継者・旧経営者・推定相続人全員の合意のうえで、自社株式を遺留分の算定基礎から除外する合意を締結する方法です。家庭裁判所の許可が必要ですが、株式分散リスクを根本的に防ぐことができます。

株式の移転は生前贈与と相続のどちらがよいですか?

どちらが有利かは自社株の評価額・経営者の年齢・後継者の資金力などによって異なりますが、一般的な比較は以下の通りです。

 

比較項目 生前贈与 相続(死亡後の移転)
経営権の移転タイミング 生前に計画的に移転できる 死亡時に一括移転(タイミングを選べない)
税負担 贈与税(暦年贈与・相続時精算課税を活用可) 相続税(基礎控除あり)
事業承継税制の活用 ◎ 贈与型・相続型ともに特例措置の対象 ◎ 相続型で特例措置の対象
株価が高い場合 先に株価を引き下げてから贈与すると税負担を抑えられる 相続時の株価が高いと税負担が大きくなる
遺留分リスク 贈与後10年超は遺留分算定に含まれない(2019年改正) 遺留分の対象になりやすい

 

多くのケースでは生前贈与(毎年少量ずつ移転)+役員退職金による株価引き下げ+事業承継税制の活用を組み合わせることで、税負担を抑えながら段階的に株式を後継者に集中させる方法が取られます。最適な方法は自社の株価・財務状況・家族構成によって異なるため、早めに専門家に相談することを推奨します。

よくある質問(FAQ)

Q. 事業承継で遺言書は必要ですか?どのように活用すればよいですか?

事業承継において遺言書は非常に有効な対策の一つです。主なメリットは「後継者への株式集中を法的に明確にできる」「遺産分割協議を省略できるため承継がスムーズになる」「経営者の意思を明文化することで親族間の争いを予防できる」の3点です。事業承継での遺言書には公正証書遺言が推奨されます。公証人が関与するため法的に無効になるリスクがほぼなく、原本が公証役場に保管されるため紛失・改ざんの心配もありません。作成にあたっては弁護士または司法書士への相談が必要ですが、「後継者に自社株式のすべてを相続させる」「代替財産として○○を他の相続人に相続させる」など、事業承継の観点で盛り込む内容を事前に整理しておくとスムーズです。

 

Q. 自社株式の評価額が高すぎて贈与・相続の税負担が心配です。どうすればよいですか?

自社株の評価額が高い場合は、まず「株価を引き下げてから移転する」という順序が基本です。株価引き下げの代表的な方法は、役員退職金の支給(利益圧縮による株価低下)・持株会社の設立・不良資産の整理などです。株価を適正水準に下げたうえで、事業承継税制(特例措置)を活用して贈与税・相続税の納税を猶予する方法を組み合わせることで、税負担を大幅に軽減できるケースがあります。ただし、株価引き下げの手法は会社の財務状況によって適否が異なりますので、税理士と事業承継の専門家に早めに相談することをお勧めします。

 

Q. 株式が親族に分散してしまっている場合、集約する方法はありますか?

あります。主な方法は以下の3つです。①少数株主から買い取る(会社または後継者が時価で買い取る)、②株式の無償譲渡・贈与を受ける(親族間の合意が必要)、③会社として自己株式を取得して消却する。いずれも株価の算定・税務処理・少数株主との合意形成が必要です。長年放置された分散株は整理が難航するケースもあるため、承継を検討し始めた早い段階で株主名簿を確認し、分散株の整理に着手することをお勧めします。

 

Q. 財産分配をめぐって後継者と他の兄弟が対立しています。どうすればよいですか?

親族間の対立は、多くの場合「情報の非対称性(財産の全容・評価額・承継の理由が共有されていない)」と「感情的な不公平感」から生まれます。まず現経営者が財産の全容を開示し、「なぜ後継者に株式を集中させる必要があるか」を丁寧に説明する場を設けることが先決です。それでも対立が解消しない場合は、弁護士や事業承継コンサルタントを交えた話し合いの場を設けることが有効です。感情的になりやすい親族間の交渉に第三者が入ることで、客観的な視点から解決策を提示できます。

 

Q. 株式・財産分配の対策はいつから始めるべきですか?

できるだけ早く、少なくとも承継予定の10年前から着手することを推奨します。生前贈与は毎年少量ずつ行うことで贈与税の基礎控除(年110万円)を活用でき、長期間かけて株式を移転するほど税負担を抑えられます。また遺留分に関する合意(経営承継円滑化法の特例)は経営者が存命中に推定相続人全員の同意が必要で、時間と準備が必要です。「相続が発生してから考える」では遅く、準備期間が短いほど取れる手段が限られます。

 

Q. 事業承継における「資産の承継」とは何を指しますか?引き継ぐべき資産の種類を教えてください。

事業承継における「資産の承継」とは、事業を継続するために必要な資産・負債をすべて後継者に引き継ぐことを指します。引き継ぐ対象は主に以下の4種類です。①自社株式(株式会社の場合、会社の資産価値は株式に包含されるため、株式の承継が中心となります)、②事業用資産(製造設備・車両・不動産など事業に使用している有形資産)、③債権と債務(売掛金・買掛金・銀行借入など)、④個人財産と保証関係(現経営者が個人名義で持つ事業用不動産・銀行借入への連帯保証など)。特に注意が必要なのは④で、経営者個人の保証関係は会社の資産とは別に整理・承継を検討する必要があります。また、株式・事業用資産を贈与や相続で移転する際は多額の贈与税・相続税が発生するケースがあるため、税負担を抑える方法(事業承継税制・生前贈与・株価引き下げ)を早期に専門家と検討することが重要です。

 

Q. 事業承継における債権・債務はどのように引き継がれますか?

承継の形態によって取り扱いが異なります。株式譲渡(会社ごと引き継ぐ方法)の場合、会社が保有する債権・債務はそのまま会社に残るため、後継者が個別に引き継ぐ手続きは基本的に不要です。一方、事業譲渡(特定の事業だけを移転する方法)の場合は、どの債権・債務を引き継ぐかを契約書で個別に定める必要があり、債権者・債務者の同意が必要になるケースもあります。特に注意が必要なのは銀行借入と連帯保証です。会社の借入は株式譲渡でそのまま引き継がれますが、現経営者の個人保証(連帯保証)は経営者保証ガイドラインを活用した解除交渉が別途必要です。また、売掛金・買掛金・未払い費用などの日常的な債権・債務は、承継時の残高を正確に把握しておくことが重要です。

 

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